月村了衛『機龍警察』 「読むアニメ」だ……
咲紫です。月村了衛 『機龍警察』読みました。
いや〜読んでたら本当にアニメでびびりましたね(何?)
表紙からすると硬派な警察小説って感じですがバリ強の特殊部隊がロボに乗ってバシバシ戦う話なんで確実にオタク向けです。読もう。
特殊部隊(警視庁特捜部=通称「機龍警察」)のメンツからして
・外務省から特捜部部長になった謎多き人物
・ヘラヘラしてるけどバリ強の傭兵
・元警察だが過去に犯罪に手を染めた経験のあるイケメン
・陰鬱美人元テロリスト
・テロリストに家族を皆殺しにされたメガネっ子メカニック
ですからね。アニメじゃん……
ちなみに雇われ部隊なので普通の警察官からは鼻摘まみもの扱いされてます。こういう軋轢もあって特捜部の行動が内部から阻害されたりすることもしばしば。おお……警察小説っぽい……(警察小説は読んだことがないです)
その辺の陰謀や上層部の思惑とかの部分もおもしろいんですが、何より戦闘描写と話の起伏のつけ方がいい。
「BMIアジャスト完了」
背筋が熱くなり、全身に一瞬痺れとも痛みとも言えない感覚が走る。『龍骨〈キール〉』の回路が開かれ、姿の脊髄に埋め込まれた『龍髭〈ウィスカー〉』と連動したのだ。
『龍骨』と一対一で対応する専用キー『龍髭』。
この瞬間、いつも姿は戦場の感覚が全身に蘇るのを感じる。悪寒にも似た陶酔。閉塞にも似た高揚。炸薬と硝煙の甘美な腐臭。無数の針で体中を抉られるような感触が、細胞の一つ一つに刻み込まれた闘争の記憶を呼び覚ます。
「キール、ウィスカー、エンゲージ確認。エンベロープ・リミット5・0」
両腕、両脚、胴体各部のアジャスト・ベゼルが回転し、リコイル・トリム(抵抗)を調整。自己診断プログラムが異常の有無を走査する。結果:未検出。全ハッチのロックを示すインジケーターが点灯した。
「最終トリミング完了。ステイタス・セルフチェック、オールグリーン。PD1フィアボルグ、レディ」
姿俊之警部専用龍機兵・コードネーム『フィアボルグ』。
ダーク・カーキを基調とする市街地迷彩のボディがコンテナから足を踏み出し、路上に立つ。(文庫版40〜41P)
これでテンション上がらないオタクとかいるの?
序盤からこれですからね(「龍機兵」がロボの名称です)。えっ……私ハヤカワ文庫JA読んでたつもりだったけどひょっとして深夜アニメ観てたのかな……?
戦闘描写もとにかくスピード感があっていいです。読むと映像がワーッと脳裏に浮かんでくるのですがこれは私がオタクだからかもしれない(普通に文章力が高いからだと思う)。
あと物語中盤のあたりで危機に陥った特捜部のメンバーAのことをメンバーBが救出する場面があるのですが(一応ネタバレかもしれないので名前伏せておきます)、もうこれが……本当に……凄くて……
何の気なしにその部分を読んだらあまりにも面白くて割と冗談抜きでガチ徹夜しました(4時くらいまで起きてた)。
メンバーA視点に寄った描写、メンバーB視点よりの描写、あと敵の視点よりの描写があるんですけれど、それぞれの緊迫感がよく伝わってきます。ハラハラするよ〜!
あとメンバーBがめっちゃ強いんですけど、敵視点から見ると恐怖感が増大してていいですね。こんな奴が来たら誰だってビビるわって描かれ方してます。一応正義の味方なんですけどね。
あ、あと特捜部の元テロリストとテロで家族を失ったメガネっ子はガチです。ガチです。
大変良いエンタメでした。強い女と強い男は最高……神アニメだった……(アニメ化はしていません)
起きたままでも悪夢は見れる! 悪夢小説のすすめ
咲紫です。ヨーグリーナはうまいな〜
悪夢みたいな小説が好きです。「悪夢みたいな小説」というのは「幻想とグロテスクが入り混じっている」とか「読むとこちらが信じていたものがガタガタに崩れていく」とか「通常の倫理が全く存在していない」とかそんな感じです。
具体例はまあ散々挙げていくので嫌でもわかると思いますが、先に言っておくとこれは今敏の『パプリカ』のパレードシーンがこの世で一番好きな映像みたいな人間向けの記事です。
私はこういう小説が大好きなのでこのブログの読者にも全員読んでもらいたいですし、全員悪夢を見て欲しいです(最悪)
☆が多いほど悪夢度が高い(完全に主観です)。
- 悪夢度☆1
- 作者: ルイス・キャロル,河合祥一郎
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まあ基本っすよね。読むならことば遊びをめちゃくちゃ頑張ってる角川訳がオススメなんですが、私はオタクなので角川つばさ文庫版で買いました……
- 作者: ルイス・キャロル,okama,河合祥一郎
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アリスという女の子がうさぎを追いかけていたら穴に落ちてしまい、不思議の国に出てしまう……というのがあらすじなのですが、不思議の国の住人は基本的に人の話を聞かないので会話がめちゃくちゃで楽しい。あと倫理もない。
公爵夫人の赤ん坊(蒸気機関車のごとく泣き叫び暴れる)をきちんと抱っこする方法が
結び目を作るみたいに赤ん坊をねじったうえで、右耳と左足をしっかりおさえてほどけないようにしておくのです(つばさ文庫/104P)
ですからね。サイコーすぎる。
アリス 【HDニューマスター/チェコ語完全版】 [Blu-ray]
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シュヴァンクマイエルの映画もオススメです!
で、アリスのついでに紹介しておきたいのが、
梨木香歩『f植物園の巣穴』
みんな大好き梨木香歩ですね! これは植物園の園丁(未亡人の男性)が木のうろに落ちて異界に行くっていうアレです。和製アリス。あと多少柔らかくした芥川の『河童』
で、これには千代っていう女がめちゃくちゃよく現れます(「千代という名に縁がある」云々)川端康成かな?
千代リスト↓
・幼い頃自分を世話してくれた女(姉や)
・死んだ妻
・歯医者の女
これら全員千代です。だんだん悪夢じみてきましたね! ほかにも鯰の神主とか謎の河童とかが出てきて目がぐるぐるする。梨木の中でも幻想性がかなり高いのですが最後には心にじんわりくるいい話になります。悪夢小説とは思えなくなってきたな……ネタバレしないように言うと、人間の失われた記憶を遡る話です。「何か」を失った人間が回復していく話はいいもんだ。
悪夢度☆2
中村九郎『ロクメンダイス、』
そういえばこれも人間が何かを回復していく話だな……
恋をしなければ死んでしまう少年と動揺すると過剰防衛反応が働いて、自分を動揺させた相手のことを傷つけてしまう少女の恋の話です。少年の方はともかく少女のほうは普通の人では? と思うかもしれませんがその「過剰防衛」は少女以外の人間が、少女を動揺させた人間のことを攻撃しはじめるというトンデモなアレ。無意識マインドコントロール。
さらに主人公は社会に自分を適応させようとした結果心がすり減っており、大変精神が不安定なので主人公が見ている情景が現実のものなのか妄想のものなのかがわからない。叙述トリックでときどきあるやつ
しかもわからなくても特に支障はない。
個人的に似た読み心地だな〜と思ったのは麻耶雄嵩『夏と冬の奏鳴曲』、舞城王太郎『好き好き大好き超愛してる。』、牧野修『MOUSE』です。今書いて思いましたがとんでもねえラインナップだ。
でもね〜めちゃくちゃセリフとか文章がエモいんですよね……
誰でもいい。ぼくに恋を教えてください。
ぼくは恋をしないと死んでしまうのです。
ぼくは学校で『恋』について学んだことがない。
誰からも教えてもらったことがない。
だからぼくは、恋を知らないのでしょう。
普通の人なら当たり前に、知っているものなのですか、ぼくに教えてください――先生?(口絵より)
エモすぎる。絶版なのが残念なところですが、手に入った暁には是非読んでもらいたいです。
富士見ミステリー文庫とかいうくらいだから『ロクメンダイス、』もミステリなの? と思われる方がいるかもしれませんが、センチメンタルドンチャカエンタメです。主人公の妄想世界で繰り広げられるバトルが楽しいんですよ(えっバトルあるんですかこの本)(あります)。
青春とその痛みが好きな人向け。
悪夢度☆3
佐藤哲也『妻の帝国』
これまで紹介したやつはなんだかんだでちょっと可愛らしさがあったりしましたが、この辺からだんだん具合が悪くなってきます。
いや、あらすじからして
「わたし」の妻は「最高指導者」である。あらゆるイデオロギーを否定し、直観による民衆独裁のみを肯定する民衆国家の構築をもくろみ、毎日大量の手紙を民衆細胞に宛てて投函していた。悪夢的な不条理世界で、奇想天外な政治劇が、残酷で饒舌な超絶技巧描写に乗って展開する。(Amazon商品紹介より)
明らかに地獄。突然民衆独裁国家の像を夢想した妻が民衆感覚により人々を誘導し帝国を建設する……っておいおい!
何においても民衆感覚(民衆独裁国家では民衆が「次に何を行うべきか」が自ずとわかる、という前提があり、その「直感」のこと)が優先される割にそれら「直感」がさすものが曖昧だったり、個別分子(民衆感覚を感じられない人々)の摘発が無限に行われたりします。こう書くとなかなか風刺っぽい話ですね……
あと妙に笑える描写がちらほらあり。
ちなみに個別分子を座らせようとする時、兵士たちは次のように言った。
「こっこっこっこっ、ざるざるざる、えっめい」
実際には一音一音を下顎に押し付けるようにして発音していた。最初の「こっこっこっこっ」は複数の個別分子を意味している。個別分子を意味する個という語が繰り返されているからだ。多くの場合、繰り返しは四回だった。なぜ四回なのかという理由については、兵士に数えられるのが四つまでだからという説明を聞いたことがある。たしかに四回を越える例を耳にしたことがない。(294P)
我ながら全然わからないところを引用してしまった……なんだそれはって感じですが、妙に好きなんですよねここの部分。ブラックユーモアとディストピアみの両立といいますか。
会話の妙なズレとかもなかなかいいです。まともな感覚を持ったキャラと、民衆細胞(民衆感覚を感じ取れる人間)とのやりとりが本当にいい。ナイスディストピア!
ちなみになんでこれが☆3なのかというとまだ現実よりだからです。
悪夢度☆4
倉橋由美子『スミヤキストQの冒険』
はいきた地獄! 架空の党「スミヤキ党」の党員「Q」くんが怪しげな島の児童を党のありがたい教えに染めようとするのですが、児童にも児童を管理する人間にも本当に倫理がないので読者が信じていたものもQくんが信じていたものもバキバキに否定されていくのが本当に楽しい。常識が破壊されていくことは本当にグロテスクなんだな……というのがよくわかります。
「わたしを人間にあらざるものと規定することによって、人間全体を救出しようとする」
「毎日欠かさず肉を食べていたのだから、君の細胞の大半はかつてのきみではなくておきかえられている(中略)きみはきみではなくて他人なのだ」
ヒエ〜!!!(引用注:現在本が手元にないので正確な文章でない可能性大です、すみません)冷徹な文章と転倒した論理の組み合わせが最高。
悪夢度☆5
牧野修『楽園の知恵―あるいはヒステリーの歴史』
はい、みんな大好き牧野修ですね。同作者の『月世界小説』はまだ悪夢度は低いんですが、それでも10人の知人に読ませたらそのうちの2人が悪夢を見ていました。
『楽園の知恵』は短編集なんですが、どの話も奇想妄想幻想悪夢ですごい。
多分この画像を見てもらうのが早いんですが(これは収録作「踊るバビロン」のはじめの1P)
お前……
「踊るバビロン」はこの脚注芸もすごいんですが、話の内容自体も巨大な屋敷をめぐって喋る家具と主従関係を結んでSMプレイをしたりするのでヤバイ。ちなみに主人は家具の方です。ほかにも官能小説で世界を解体したりとか黒魔術演歌の歴史をつらつら述べる話とかどういう発想してんだお前……みたいな作品ばっかで楽しいです。これぞ悪夢。
でも牧野修の初読には多分向いてないので『月世界小説』か『MOUSE』がオススメです。こっちもおもしろいよ。
他にも芥川龍之介『河童』とか内田百閒『冥途』とかありますが割愛。樺山三英『ハムレット・シンドローム』、西尾維新『ニンギョウがニンギョウ』とかも悪夢みがあるらしいとのこと(未読です)。
みなさんも良き悪夢ライフを!
みんな初めてのブログ記事って何書いてんだ
はじめまして咲紫といいます。タイトルは今の率直な気持ちです。
ミステリ・SF・ファンタジー小説のざっくりした感想記事を書いていく予定です(予定は未定)Twitter(咲紫 (@sasakisisakisi) | Twitter)でも感想はある程度書いていますがそれよりも長くてまあまあ真面目なやつを書きます(予定は未定)
基本的にはとても弱いオタクなのでよろしくお願いします。
あっ読書感想ブログらしいことを言わなければ! これから機龍警察読みます!
なんか読み終わった周囲の人間が「プリパラ」としか言わないんですけど大丈夫なんですかね!? いや楽しみですけど……