『正解するカド』感想-好きなところと嫌いなところと褒めるべきところと批判すべきところとが合わさって死ぬ
咲紫です。『正解するカド』好きです! 正気か。
いや〜………やっばかったですよね正解するカド(以下カド)最終話……Twitterでもamazonでもボロクソ叩かれてますけど正直好きな人間からしてもいろいろな意味において仕方ないよな……という気持ちでいっぱいになりましたわ……
というわけで最終話を中心にしたカドの感想です。好きだけど……好きなんだけどな……
※以下『正解するカド』のネタバレと野崎まど『know』の若干のネタバレを含みます
(※前提として:私が読んだことのある野崎まど作品は『know』『BLAME! THE ANTHOLOGY』の「乱暴な安全装置 -涙の接続者支援箱-」と本作のみです)
えっと〜たぶんこのアニメが叩かれてるのって
- 9話あたりからの超展開(一応伏線らしきものはあるがそれにしても唐突すぎる)
- 男性形態をとっているヤハクィザシュニナが男性の真道に執着していることによって同性愛描写があるように見える(この描写自体は悪くないです)
- 2の描写があるにもかかわらず最終話でヤハクィザシュニナを容赦無く異性愛で殴ることによって同性愛を異性愛で殴っているように見える
- 唐突に入る恋愛要素と、その描写の荒さ(どうして好き合うようになったのかがあまり仔細に書かれていない)
- 最終話におけるキャラの扱いの全体的な悪さ
とかの理由だと思うんですけど……どれも全く否定できない……というか正直ここは批判すべきところだと思います。いや1に関してはそうでもないかな。
☆良かった点
・物語の先の展開か予測できないところはやっぱ魅力かなとは思います。本当に毎週驚いていた。驚きの感情、やっぱエンタメですからね。というかこれはもはや私の嗜好の問題なのでは……? とにかく先が気になってどんどん観てしまう求心力はすごい。まあでも8話までの物語を期待してた人には残念な感じになるだろうな……たぶんカド観るときに一番重要なの、細かいところを気にせず物語のノリに乗れるかどうかなのでは。
・真道くんほんとキャラがいいな……なんか派手さはないんですけどどの人間や人間ならざるものに対しても誠実に対応し続けるさまが本当にいい。カド、登場人物のほとんどが真道幸路朗のことが好きという異常なアニメなんですけど、観てたら納得するだけの魅力はあります。最終話の非道行為については後で触れます。
・細かい話になりますが、登場人物、みんな頭が良くてストレスフリーに観られます。そしてみんな頭がいい割に視聴者が置いていかれないのもすごい。カド転がす回とか品輪博士がワム作る回とかね。それ以降の展開において別の意味で置いていかれた人はいるかもしれない。
・ヤハクィザシュニナの会話はできるが致命的に倫理観や価値観の違うものとしての描き方の良さ! 9話終盤ほんと凄かった……このアニメ、「ヤハクィザシュニナが敵か味方かどうかを判断する」というのも見所だったと思うのですが(というかヤハクィザシュニナ本人が言っている)ヤハクィザシュニナ、人類にとってはマジでヤバい存在なのに本人は全く自分の行為を悪と思ってなさそうなところがいいなと思います。エッ最終話のやたら感情があるヤハクィザシュニナ……? えーっと……うーん……そうねえ……(いや私は好きですよあれ)
☆悪かった点
・恋愛描写が唐突でしかも荒い!!!! いや沙羅花のことも真道くんのことも好きなんですよ……好きだからこそさあ……もっとさあ……二人にはゆっくりと関係を深めていってほしくてさあ……(言葉にならない感情)真道くん、同じように絆を深めあったとしても沙羅花が男だったらキスしてないでしょ!?
あんまり関係ない気もしてきますが、カドの異性間恋愛描写見てたら、同脚本家の『know』の終盤あたりで唐突にヒロインと主人公が性交渉しだしたの思い出しました。安易に性交渉をするな。いやそれまではなんか普通の(普通でもないな)男女バディって感じで最高だったんですよ……信頼しあっているなという描写はあっても恋愛じみた描写は……なかったんですよ……お前ーっ男と女がなーっ絆を深めあったからといってなーっ安易になーっ恋愛をなーっ!
まあ『know』は多分二人の絆が深まりました〜ってことを描写したかったんでしょうが、カドの場合異性愛を完全に道具として扱っている(後述)ので面白い。面白くはないです。あと念のために言っておくと私は真道くんが異性愛者であることを批判したいわけではないです。
・そして異性愛でヤハクィザシュニナをむやみに殴るんじゃないよ!! リストのところでも書きましたけど、ヤハクィザシュニナが男性形態をとっていて、しかも男性である真道くんに執着していたらそれはどうしても同性愛を想起してしまうわけです。わけですよ。それはいいんです。その状態のヤハクィザシュニナに真道くんと沙羅花から生まれたユキカを見せつけるのはお前それ……暴力だよ……そういう意図がないとはわかってても同性愛を異性愛で殴っているように見えてしまうよ……まあヤハクィザシュニナが女性形態でも絶対あのやり方とってたとは思うんですけど、それはそれでな。なんにせよ今の時代やるには正しくない(ように読めてしまう)表現ですよね……
・異性愛が完全に道具扱いされてるのもウケる。ユキカ、真道くんと沙羅花の愛の結果というより問題を解決するための道具ですよねあれ。コラ! 異性愛も出産も子供も道具じゃないんだぞ! 感情が挟まれる余地がない。真道くんと沙羅花の恋愛描写もこれをやるためだけに描かれたんだな……って気がしますよね……
・最終話において全体的にキャラの扱いがヤバいのもヤバい。いやほんと……16年間子供を育てさせられた花森くんの気持ちを考えてやれよ……真道くんも沙羅花も普通に考えたらもっと愛をもって子供を産んで育成する人間だと思うんですけど、物語的にああなってしまった……というか真道くんいままであんな『信じて送り出した真道が地球大好き異方存在との異性愛にドハマリして出産顔ダブルピースビデオレターを送ってくるなんて...』みたいなことするキャラじゃなかったですよね!? 「ヤハクィザシュニナを驚かせる」という物語の目的のためだけに動いている……完全にキャラが物語のパーツとしてしか動いていない……キャラで観てたひとはかなりキツそうです。特にヤハクィザシュニナ。キャラで観るアニメではない。
・地味にムカついたのがユキカの「あいつ、そんなに悪いやつじゃなかったよ」ですね。お前消滅させといてそんなこと言うのかよ! いやまあこれはぽっと出のキャラにいままで出張ってたキャラをボコボコにされた個人的な恨みなんですけど。たぶんこれラストの「これからは我々が異邦に向かうべきだ」みたいな語りのあとにユキカがヤハクィザシュニナに会いにいく描写があったらそんなムカついてなかった。
・あと最終話のあまりに感情があるヤハクィザシュニナもちょっと違和感ありました。ヤハクィザシュニナが感情を会得する事自体は別にいいんですけど、9〜11話を観てから12話観るとちょっと感情を学びすぎというか、急。これは尺が足りなかったのかなー。
個人的に特に気になったのはこの辺ですかね。好きなところは物語の予測が全くできないところ、ヤバイなと思ったところは異性愛で殴ってるところとキャラの扱いです。本当に人選ぶアニメだなこれ! 私は好きですが人に勧める気にはなれないですね……
まあこれは合わなくてもしょうがないと思います。SFの傷はSFで癒すしかない。最高の小説『マルドゥック・スクランブル』を読め。以上です。
マルドゥック・スクランブル The 1st Compression 〔完全版〕 (ハヤカワ文庫JA)
- 作者: 冲方丁
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/10/08
- メディア: 文庫
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めちゃめちゃどうでもいいんですが、このiPhoneケース使ってると私がNTRムービー見せてきそうな人間に思われそうですね。
ハンドスピナー買った
咲紫です。何ヶ月ぶりの更新だよ。
いや〜更新してない間いろいろありましたよね……Fate/Grand Orderが1部完結したり……深紅の碑文読んで打ちひしがれたり……Fate/Grand Orderの1.5部が始まったり……いろいろ……
で、タイトル通りハンドスピナーを買いました。
なんで買ったかというと、まあ話題になってるからというのもあるんですが、自分自身の落ち着きのなさが少しでも抑えられたらいいな……と思い……
笹木志咲紫のステータスとしては
・やたら落ち着きのない行動をしがち
・というかひとりでの食事中に立ち歩いてしまう
・集中力がない
・飽きやすい
というまあ……なんというかな……な感じの人間をしています(なんらかのハンディキャップ持ちの可能性はありますが診断してないのでどうにも)
ハンドスピナー、これ単体で遊ぶのよりは手持ち無沙汰なときに弄り回したりとか落ち着きのない人間が弄るの向きらしいので、まあ向いているのではないかと思って購入した次第です。
というわけでこいつが俺のハンドスピナーだ!!
まあ完全に見た目で買ったわけなんですけど……(見た目が格好いいものは最高なので)
私は秋葉原のヨドバシカメラで3650円(ヨドポイント使ったので値引きして3000円)で買いました。我ながらハマるかどうかわからんものに一気に金出しすぎでしょ……
「エツミ」という会社が輸入販売してる中国製のものです。ネットでも買えますね。
エツミ オンラインショップ|ハンドスピナー ギア3 (5色) | その他取扱製品,その他取扱製品 |
勢いよく回ってるのははじめの3分くらいですが、ただ回るぶんには6分くらい持続します。
以下5日間くらいいじっての感想です。
・重い
いやもっと軽いやつ買えばよかったわ……私が非力というのも大いにあるんですが。まあ素材はよくわかりませんが全体が金属製ですからね。そりゃ重いよな。ちょっと指一本で支えるのはキツいかな〜と思ってたらこの記事書いてる間にできるようになりました。慣れが必要なのは確かです。
・回転中に当たると痛い
そりゃそうだろ! という感じではありますが、羽の端に取り付けてある歯車、超格好いいんですけど回転中に当たるとかなしい気持ちになります(重量も相まってね……)。
歯車自体もちゃんと回るのがイカす(さすがに本体回転中には回らないが) pic.twitter.com/RbnETIyLkY
— 咲紫 (@sasakisisakisi) 2017年6月27日
でもこのギミックが超格好いいので52872398億点です!!!!!
・回転が無限に見られる
無限に見られます。いや別にこれ単体で面白いもんでもなんでもないんですけどね。
思ったんですけど、
「なんか見ちゃうもの」の最高峰は「沸騰」でした - デイリーポータルZ:@nifty
こういう感じで湯気を延々と見てしまう人とか、要するに虚無を見つめるのが好きな人にはだいぶ向いてそうです。私は虚無が大好きです。
・食事中に立ち歩かなくてもよくなった
うれしい!!!! 集中力が切れて立ち歩きそうになったときになんとなく回すといい感じです。特にサラダとの相性が異常によく、無限に回せるし、無限に食えます。いま思ったんですけど食事中に立ち歩いてしまうのと食事中にハンドスピナー回すの、マナー的にはどっこいどっこいなのでは?
・集中して読書できる
うれしい!!!!!!! 読書中にスマホをすぐいじってしまう人間なのですが、食事中と同じ要領でちょくちょく回してたら集中して読めるようになりました。やったね!
こんな感じですかね。個人的には買ってよかったなあと思います。まあ飽き性なのですぐ飽きる可能性もあるんですが……
まあ悪いことは言わないから始めは2枚羽根で軽そうなやつ買っときな!!! 以上!!!
よく回る pic.twitter.com/5FuLTbjFBv
— 咲紫 (@sasakisisakisi) 2017年6月27日
虚無が回転してる映像です。
『シン・ゴジラ』箇条書き感想(ネタバレ)
咲紫です! ミーハーなのでいまさら『シン・ゴジラ』みました!!!!
「ワ〜イ破壊と暴力が大好き 早く暴れまわるところがみたいな〜」と思って観に行ったんですが、ゴジラ、ふつうにガチ天災だったので前半は結構キましたね……
以下雑感です↓(ネタバレ)
・いや第二形態の動き気持ち悪いな!? あの這いずり回り方も目も見てて不安になるし体液を出さないでほしい(出さなかったら倒せてないけど)
・瓦礫が地を埋め尽くしているのもアレですが瓦礫の中に人の靴があったりとかするの「多数の市民の命……多数の市民の命……」となって結構ウワッとなる……
・余貴美子の視線が強くて好き
・えっ背中からビーム出るの!?
・尻尾からも!!?
・大臣が乗ったヘリが一瞬で落とされるの、予想できるとはいえウワーッ! となりますね。人間、一瞬で死ぬ……
・余貴美子も死ぬ……
・瓦礫で埋め尽くされている時点でも相当でしたが首都圏が火の海になるのはマジで地獄を感じた
・でもゴジラ、人間に攻撃されるまで自分から攻撃することはなかったんですよね……歩いてただけなんですよね……
・生物……生きている命……
・「まずはお前が落ち着け(水を差し出しながら)」サイコ〜!!!
・というか泉と矢口は気の置けない仲という感じでいいですね〜
・理想を語る男が好きだからふつうに矢口蘭堂が好き……
・「ZARAはどこ?」サイコ〜〜〜!!!!
・尾頭さん、情報量が多い話を早口で喋るのでオタクっぽくて好感が持てます(最悪)
・尾頭さんずっと無表情プロフェッショナルなのいいですね
・↑からの最後の笑顔ずるすぎない!? そりゃ大好きになっちゃうでしょ……
・安田はまた違うタイプのオタクっぽさある
・安田、イラストに描かれたら目にハイライトが入ってないタイプのキャラ
・「そんなんありかよぉ!」単純におもしろい
・ほかに好きなセリフは「礼はいりません 仕事ですから」ですね。あまりにも格好よすぎる。
・ビルを!!!! そんな!!!! ドミノみたいに!!!!!! アンタ!!!!!
・ひかりが!!!!!!!!!!!!!!!!!!
・在来線が!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
・冷静に考えて「無人在来線爆弾」って呼称、あまりに強すぎますね……単純文字列として『虐殺器官』並みの強さ……
・伊藤計劃『無人在来線爆弾』(ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)
・戦闘機とかそれに搭載されてる兵器とかが結構細かく呼称が紹介されるのに対して「スーパーコンピューター群」とか「コンクリートポンプ車群」とかがあまりにもざっくりした呼称すぎてちょっとンフフ……となってしまった(えっそこ笑いどころ!?)(たぶん違う)
・終盤になると人間への感情移入がやばすぎて「アアア!! 頼む!!! なんとか成功させてくれ!!!」という気分になっていた
・なのでポンプ車第一陣が薙ぎ払われたときアワワワ……アワワ……つってた
・なんとかなってよかった……ほんとに……
・人間の力〜!!!!!!
まあ大体こういう感じですかね。おもしろかったです。
シン・ゴジラ、有能な人間が頑張る話でもあるんですが、「コネでのし上がってきた」「みんなに代理を押し付けられた」総理代理が頑張ってたんだよ〜って最後にわかるの、いいですよね……人間、当たり前なんだが有能な存在だけではないし有能な人間でなくともできることはあるのだ……
あと見逃してるのか私に読解力が致命的にないのかあれなんですけど、結局博士のやりたかったこと……とは……
博士、ゴジラになったのかな〜とか勝手に思ってたんですが確証がない。これからひとの感想とか見に行きます。
デッサンが狂ったパンケーキを食べた〜い! 星乃珈琲店に行ってきたよ!
こんばんは咲紫です。夏は暑くてしんどいですね〜。こんなこと言っておきながら冬もしんどいんですけど……(虚弱)
はい、今回は今までとうってかわって食レポです。理由としてはパンケーキが無性に食べたかった以外にはないです。
いや〜この間偶然見かけた星乃珈琲のパンケーキに目を奪われてしまいまして。
いやだってこんなん
目の錯覚かな? って思うじゃないですか……(画像は公式サイト星乃珈琲店 オフィシャルサイトより)
というわけで行ってきました星乃珈琲。
・店舗
今回行ってきたのは石神井公園店です。ただ単に行ったことのない土地だったから行ってみよ! ヘラヘラ! って感じだったんですが正直石神井公園駅、あんまり交通の便がよくないです。素直に新宿とかの店行っときゃよかった
星乃珈琲は2階にあるんですが、1階がパン屋になっていて、間違えてパン屋に入りそうな構造です(それはお前だけだ)
席数はそんなに多くないですが(40くらい?)そこまで混んでないですね。私が平日の昼に行ったのも大きいと思いますが。参考にならない記事ですみません……
中はシャンデリアとかがかかっていてレトロな感じ。店員さんの制服も燕尾服みたいでかわいかったな〜! 蝶ネクタイがキュート。
お店の雰囲気も落ち着いていてなによりです。
・注文してみよう
目玉であるはずのスフレパンケーキがメニューに載ってなくてめちゃくちゃ焦りましたが、テーブルの上のこの……こういう……三角のやつにちゃんと載ってました。
まあ本来ならこのスフレパンケーキダブルを頼む流れだと思うんですが、私はシーザーサラダとパンケーキのプレートを頼みました……(なんで!?)(美味しそうだったから……)あとフルーツティー。
おお……
フルーツティー、デキャンタにフルーツがゴロゴロ入って出てくるのでなんかサングリアっぽいですね。
信じられんくらい写真映えするな!?
たぶんオレンジジュースと混ぜてあって甘くて美味しいです。果汁と砂糖が入ってる……気がする……中に入ってるフルーツはマンゴー、オレンジ、ブルーベリー、キウイ、レモン、あとなんか赤い実です。700円くらいするけどグラスでおおよそ3杯くらい飲めるのでそんな高くないですね。
サラダ、奥の方にある白い液体を冷製スープかなんかだと思い込んでいたので「なんか……味しないな……」と思いながら無味のまま3口くらい食べてしまいましたが、普通にシーザードレッシングでした。
シーザードレッシング、チーズ感が強いやつと酸味が強いやつに分かれると思うんですが、これは完全に後者ですね。温玉とカリカリのベーコンがいいです。
で、パンケーキですよ。
プレートのスフレパンケーキはミニサイズとのことですが、ミニサイズにしては割とでかいです。直径10cm×高さ3cmくらい?(高さって表現が出るのもすごいな)
「ふわふわ」が売りっぽいですが、結構しっかりした食感してます。サラダを食べた段階では胃がちょっと心もとなかったんですが、これ食べたら満足しました。
表面がさくっとしていておいしい!!!! あとバターがうまい!!! たぶんホイップバターなんですがパンケーキの甘さ控えめな味に合ってます。小麦とバターの香りの組み合わせは世界一だなあ……しっかりした生地を噛むと香りがふわっと立ってきて本当に幸福な気分になります。
プレートだとメープルシロップだけだったんですが、普通のスフレパンケーキだとメープルか蜂蜜で選べるみたいですね。
おいしくてもっと食べたくなりましたが満腹になったのでやめました……(理性)
・総評
パンケーキがうまいな〜!!! もう一度行ったらダブルも食べたいです。やはり最初からスフレパンケーキダブルを注文するべきだったのでは?
あともはや全然関係ないんですが、駅の近くにあった古本屋が結構よかったです。 (たぶん草思堂書店草思堂書店 - 石神井公園 / 古本 - goo地図)
収穫です(2冊しか買ってないけど)
すみません……牧野修の絶版本を見ると反射的に買っちゃうんです……
他にも町井登志夫の『血液魚雷』とか小林泰三の『海を見る人』Jコレ版とか「なんでそんなものを……」みたいなのが結構あってウケました(人の蔵書を笑うな)
チェーン店だから結構行きやすいと思いますし、お暇があれば食べてみては。
それでは〜
佐藤哲也『ぬかるんでから』おもしろいな佐藤哲也!?
こんばんは咲紫です。
あの……めちゃくちゃブログ放置しててすみません本当……この数日間何をやってたかといえばFate/Grand Orderをやってました……
んで、佐藤哲也『ぬかるんでから』を読んだんですが、おもしろいですねこれ!?
なんでこんなビビってるのかというと同作者で既読の『妻の帝国』 は、おもしろいんですがなんというか風刺色が強いように思えてしまい「私はこの本を充分に理解しきれていないのでは……?」という感覚になってしまったというのがあり。
だけど『ぬかるんでから』を読んだら「あっ妻の帝国の風刺もただふざけてただけなんすね」というのがわかってよかったです。や、違うのかもしれないですけど少なくとも私はそう読めたんでそうだと思います(テクスト論の悪用)
たとえば本書には「とかげまいり」という短編が収録されているのですが、内容的には主人公が家を出た途端にあらゆる新興宗教の勧誘に絡まれまくるという話でゲラゲラ笑えます。
その勧誘の表現が、
老若男女取り混ぜた狂信者の一団が血相を変えて迫ってくるではないか。(50P)
とか、
そこでも似たような格好の連中がそれぞれ生贄を捕まえて、善良な市民の肩に手をかけている。左右を見ればこちらも同じでスーツに身を包んだ紳士淑女に学生諸君が、あれではまるで鳥打ち帽の集団に血を啜られているようだ。(51P)
とか。いや、「血を啜られているようだ」て。どんな勧誘だ。そのテンションで書く情景じゃないでしょ。
結構こういう語りは落ち着いてはいるんだけど普通にその情景はヤバいみたいな文章をベロベロ書く作家です。円城とかにも割と近い気もする。あっちよりずっとわかりやすいけど
まあこれは収録作の中でも風刺強めのほうですが(新興宗教だし……)キリギリスがチェーンソー持って追い掛け回してくる話とか鼻が男性器の集団に拉致される話とかかなりあからさまにふざけているのも多いです。めちゃくちゃだよもう。
あ、あと言及しておくべきこととしては主人公の親族が幻想と現実を接続する役割を担っているということですね。
それは妻であったり、父であったり、叔父であったりするんですが、彼ら彼女らは読者視点からすると「えっ……この叔父さん明らかにヤバいでしょ……」みたいな、奇怪な(幻想的な)言動を繰り広げます。
たとえば、表題作ではその役割は妻が担っています。世界が泥に覆われきってしまい、皆が貧困に喘いでいるところ、妻が謎の人物に自らの身体の一部を分け与えて皆の食料を得てくるという話です。キリストかよ!(人生で初めて言ったタイプのツッコミ)まあこういう感じで明らかに妻は人知を超えた存在に片脚つっこんでるんですが、主人公はその「身体を分け与える」行為を止めようとするんですよね。なんでかっていうと主人公にとっては妻は神でもなんでもなくて、「妻」でしかないからです。
ほかにもこういう描写はあり、たとえばさっき言及した鼻が男性器の集団に拉致される話(やな通称だ)だと
鼻は消滅していた。代わりにそこから生えていたのは、なんということか、よく発達した男性性器だったのである。(中略)
途方もなく大きいことを除けば自分の持ち物に似ていなくもなかったし、成人男性のものであれば叔父がよくぼくの目の前で振り回すので知っていた。(P160)
やだよそんな叔父は。
あと「祖父帰る」だと主人公の祖父と父が主人公にプロレスごっこ的なこと(しごき的な)を挑むシーンがあるのですが、
ふたりは奇声を上げながらぼくの周りをぐるぐると回り、しゃがんだり飛び上がったり、拳を振り上げたり逆立ちをしたり、かと思うと身を屈めて鼻が触れんばかりに顔を近づけ、ぼくの目玉を覗き込んだりと文明からかけ離れた行為に果てがなく、(P204)
やだよそんな祖父も父も。しかしこれも表現が凄まじいですね。「文明からかけ離れた行為に果てがなく」って表現普通父親の行動に対して使おうと思いませんからね……
とまあ、本書に出てくる親族たちはおよそ一般的な「親族」像とはかけ離れているし普通にヤバいのですが、主人公たちにとってはそれはただの親族なんですよね。「祖父帰る」の主人公も、祖父と父に対しての感情はただ「嫌い」ってだけですからね。いやもっと普通なんか……ない……!? 本当にただの家族に対しての感情でビビる……
おふざけ方面に関しての言及しかしませんでしたが、最後に収録されている「夏の軍隊」はめちゃくちゃ切なくて泣けます……少年の日の思い出みたいな感じの切なさがある……
散々紹介してきましたが、一つこの本に問題があるとすれば絶版だってことですね。妻の帝国とシンドロームを買おう!(そうなる)
それでは。
【ネタバレ】劇屍オタクによる劇場版『屍者の帝国』毀誉褒貶大会
咲紫です! みんななんの映画好き? 私はね〜『ガタカ』!(屍じゃないんかい)
皆さんは劇場版『屍者の帝国』のことを覚えていますでしょうか。昨年10月に公開した、伊藤計劃+円城塔の小説(伊藤計劃がプロローグの部分のみ書いて亡くなってしまったので、その続きを円城塔が書き継いでいます)が原作のアニメ映画です。
原作の 雰囲気的には『シャーロック・ホームズ』とか『未来のイヴ』とか『カラマーゾフの兄弟』とかその他もろもろをオマージュしたスチームパンク+ゾンビ冒険小説、という感じなんですがまあ映画は……二次創作メタブロマンスでしたよね……(コラ!)
あらすじはこんなん↓
"死者蘇生技術"が発達し、屍者を労働力として活用している19世紀末。ロンドンの医学生ジョン・H・ワトソンは、親友フライデーとの生前の約束どおり、自らの手で彼を違法に屍者化を試みる。
その行為は、諜報機関「ウォルシンガム機関」の知るところとなるが、ワトソンはその技術と魂の再生への野心を見込まれてある任務を命じられる。それは、100年前にヴィクター・フランケンシュタイン博士が遺し、まるで生者のように意思を持ち言葉を話す最初の屍者ザ・ワンを生み出す究極の技術が記されているという「ヴィクターの手記」の捜索。
第一の手がかりは、アフガニスタン奥地。ロシア帝国軍の司祭にして天才的屍者技術者アレクセイ・カラマーゾフが突如新型の屍者とともにその地へ姿を消したという。
彼が既に「手記」を入手し、新型の屍者による王国を築いているのだとしたら…?フライデーと共に海を渡るワトソン。
しかしそれは、壮大な旅のはじまりにすぎなかった。イギリス、アフガニスタン、日本、アメリカ、そして最後に彼を待ちうける舞台は…?
魂の再生は可能なのか。死してなお、生き続ける技術とは。
「ヴィクターの手記」をめぐるグレートゲームが始まる!(映画版公式サイト「Introduction」より「Project Itoh」)
まあ要するにゾンビがいる19世紀ロンドンな世界観で生前「言葉を話す」ゾンビの実現可能性について研究してた友達の死体を違法にゾンビ化した主人公が政府に見逃してもらう代わりにスゴクツヨイゾンビのつくりかたが載ってる「ヴィクターの手記」なるものを見つけろって言われて世界中を回ってドンチャカする話です。
劇屍、TLの伊藤計劃オタクが観て屍者になってたことからもわかるようにまあ色々と言いたいこととか言うべきことはあるんですがそれを考慮しても私は劇場版屍者の帝国が大好きなので毀誉褒貶大会つってもそんなに……そんなには……
まあ思ったことをメモするだけなので解釈違いとか起こしても怒らないでくださいね。怖いので。あと書いてる奴は腐女子なので偏った意見があっても怒らないでください。怖いので。
まあ
こんなグッズが公式で出てるのに誰も怒ってないあたり多分大丈夫だと思うんですが(なにも大丈夫ではない)
あとこれは普通にネタバレレビューなので今のうちに未視聴者向けに情報まとめておきます。観てね!
劇場版『屍者の帝国』はこんな映画:
- クオリティの高い原作の二次創作
- 死人に縛られる男とメタとスチームパンクのどれかが好きなら見たほうがいい
- 割とワトソンを好きになるか否かにかかっている気もする
- 原作者二人についてはざっと情報を得てから観た方がよい
- 原作は読まなくても大丈夫(その場合映画のエピローグは見て見ぬふりをしてほしい)
観てね!
※以下、劇場版『屍者の帝国』および伊藤計劃『虐殺器官』『ハーモニー』ネタバレあり
まずこの監督インタビューをね、見てほしいんですけどね。
小説を映像として再現することはもちろん、円城さんが書かれるときにたどられた道、伊藤さんと円城さんの関係性を、『屍者の帝国』を映像化する際の最終的な到達点として、なんとか映像に落とし込めないものかと考えながら作業しました。
(『屍者の帝国 アートワークス』P92「監督・牧原亮太郎 インタビュー」より)
いや……いやいや……
観てない人にとっては何が何だか……って感じだと思いますが、「フライデーとワトソンの関係は伊藤計劃と円城塔の関係を重ねているんだよ」ってことですよ。現実の関係を……架空の物語に……
いや、まあそれだけなら「はーん故人の言葉を追い続ける生者ね なるほどですね」って感じなんだけどこれの問題点としては劇屍のワトソンくんはフライデーのことしか見えてないうえにめちゃくちゃエゴイズムにあふれた人間になってるということなんですよね……というか映画を観ていて「おまえそれは……ちょっと……」ってなる行動が多すぎる。
というわけで一覧表作ってみました!
- ワトソンの「おまえそれは……ちょっと……」な行動一覧
・フライデーの死体を本人に頼まれたとはいえ違法に屍者化するうえ、なぜ屍者にしたのか絶対に周りに言わない(しかもフライデーはめちゃくちゃメンテナンスが行き届いている)
・クラソートキンとカラマーゾフに(文字どおり)死ぬほど「ヴィクターの手記を廃棄してくれ」って頼まれたのに、フライデー蘇らせたさのあまり全然人の話を聞かない
・手記を破棄するために山澤さんとバーナビーさんが奮闘している真っ最中にフライデーに手記をインストールする/その状況でやるな
・その結果手記が奪われて世界がハーでモニーして虐殺な器官になる/だいたいワトソンが悪い
・暴走したフライデーに「ただ、君にもう一度会いたかった。聞かせてほしかった、君の言葉の続きを」「なぜ置いていった」「なぜ帰ってこない」とかヤンデレ丸出しのセリフを吐く
・その後立ち直って「ヨッシャ! 世界救うか〜!」ってなるが、立ち直った理由が明らかに「フライデーの魂が一瞬戻ったっぽい」から
・こんだけフライデーに執着してるのにハダリーさんともいい雰囲気になっていて腹立つ
・こんだけフライデーに執着してるのにエピローグではすっかりフライデーのことを忘れていて腹立つ
こんなもんですかね。
どや……正直ひくやろ……? これ私の妄想でもなんでもなく事実ですからね。これが俺らの主人公ジョン・H・ワトソンくんだ。屍者の帝国は最高。
劇場版屍者の帝国の終盤では世界がゾンビだらけになってハッチャメッチャになるんですが上に記したようにその理由のほとんどがワトソンにあるんですよね。世界がメチャクチャになったときに主人公チームの中での唯一の良心バーナビーさんがワトソンのことを叱ってくれるシーンがあるのですが、そこで言うセリフが、
「全部お前のせいだろうが!」
全くだ。
何より気になるのは、こんなヤンデレ丸出し友達好き好き大好き超愛してるキャラに重ねられる円城塔の立場は……ということ。
自分が書いた小説の劇場版観に行ったら自分と自分の友達のナマモノBLアニメを観せられたみたいなもんではと思うんですがどうでしょう(どうでしょうではない)伊藤計劃は死んでるけど円城塔は生きてるんだぞ。
ちなみに円城塔が劇場版に寄せたコメントは、
この映画版『屍者の帝国』における主人公たちの関係は、自分には思いつくこともできなかったものだ。盲点というよりも、そこに気づいてしまうと、それ以上の作業を継続できなくなる類いの急所に近い。
うんまあ……思いついてたらヤバいと思う……
あなたがそこにいてくれてよかった。
小説版を終えたときにそう思った。映画版を見終えて今はこう思う。
あなたたちがそこにいてくれてよかった。
円城がいいならもういいよそれで。個人的には〜劇場版スタッフは倫理ねえなと思いましたがメタとブロマンスが好きなので 好きでした(よかったね)
あっでもラストのワトソンがヴィクターの手記を自分に書き込むシーン、めっっっっちゃ伊藤計劃を感じたんですけどあんまりそういう意見聞かないんすよね……どうなの……どうなの……
例えば、『虐殺器官』のクラヴィスはラストで「罪を背負うために」虐殺の文法を行使します。
『ハーモニー』のトァンは人類の意識が消失する前にミァハを銃殺します。
これらに共通することは、人類全体よりも自分の欲していることを重視していることだと思っているんですよね。特にトァンさんとかは、自分の意識がなくなる前にやりたいことやっとこうみたいな感じがいいですよね。
色々解釈あると思いますが、個人的には『屍者の帝国』のワトソンも基本的にはこれと同じで、研究者精神が旺盛な人間なので「俺に手記書き込んだらどうなんのかな〜」みたいな感じでラストに至ったんじゃないかな〜と思っております。「この世のためにこの手記は自分で処理せんとアカン……」みたいなこと言っておきながら結局自分の知識欲のために手記使ってるところがめっちゃエゴでいいです。じゃないと別に自分に書き込む意味とかないですからね。普通に破壊すればいいじゃんという。
ワトソンについてだけめちゃくちゃ語ってしまった……いやでももう失われてしまったものを求めている必死さとか才能への執着と人間への執着の混同とかはよく伝わってきたし、多分劇場版スタッフが描きたかったのもその辺なんじゃないですかね。知らないけど。
あ、クラソートキンとカラマーゾフの関係は明らかにフライデーとワトソンの関係に重ねられてますよね。前者はお互いに死ぬことをわかりあっている関係で後者は死んだあとも相手の意識を自分に向けようとさせたり、死んだ相手を求めたりする関係なんですが。なんにせよ地獄だ。
ザ・ワンと花嫁とかもワトソンとフライデーなんすよね……すでに失われたものを求め続けているというアレ。劇屍、基本エゴイズムと愛の話なのでしんどいです。
原作からして罰ゲームみたいな旅なんで「見逃してやる代わりに手記取ってこいや」っつー設定変更はいいと思います。ワトソン謎のヤンデレ化は……まあ……ほら……そういうこともあるよ……
原作の映像化としては端折ってるところが多すぎるので×ですが、二次創作としてはいいと思います。原作者同士の関係性を持ち込んでるあたりとかね……
ただそうなるとエンドロール後のエピローグがいただけない。
急に出てくるホームズは〜確かに原作通りだし原作読んでる身としては嬉しいんですが〜今更原作通りにやられてもな〜!?という気持ちが拭えません。逆ハーモニー。
まああれは完全に原作ファン向けの描写なので、劇場版が好きな人はエピローグのシーンだけ意識を失えば大丈夫です。
エンドロール後、ハダリーさん以外のキャラクターの目の光が失われている(=屍者化している)んですが、これは原作にたどり着けなかったバッドエンドルートだよ〜ってことなんですかね。面白いです。ハーモニい。
そんな感じですかね。
私が劇屍のことが好きな理由は人間のエゴイズムとメタとBLと死人に囚われる人間と身体の冒涜がいっぱい出てくるからです(最悪すぎる)少しでも気になるなら観た方がいいと思います。複数回見る必要はない。私は5回観たけど。
以上! 以上です! みんなで虐殺器官の公開まで震えて待とうね! おやすみ!
樺山三英『ドン・キホーテの消息』確かなものなんてないぜ。
咲紫です。今ですか? 今は花丸文庫BLACK読んでます(ダメな腐女子)
樺山三英『ドン・キホーテの消息』読みました。前々から気になってた作家だったんですがなかなか良かったです。皮肉と風刺とオマージュと。
行方不明になった妄想癖のある老人〈騎士〉とそれを追う男〈探偵〉の話が交互に繰り広げられます。始まりはちょっとミステリっぽいかも。まあミステリを期待して読むと痛い目に合うんですが。
〈騎士〉は外部から見れば妄想に取り付かれた老人です。自分のことをセルバンテスが記した小説『ドン・キホーテ』ドン・キホーテ - Wikipediaの主人公、ドン・キホーテだと思い込んでいます。そしてどこからともなく現れたお付き、サンチョ・パンサとともに現代社会の中で物語の中のように遍歴の旅に出ます。そう、妄想なのになぜか物語の中の従者がいるんですよ。この辺は本書で主に描かれているテーマと関わってくる感じ。
〈騎士〉サイド前半は割と〈騎士〉と現代社会の感覚のズレが描かれてて面白いですね。ミステリちょっと齧ってるひとなら殊能将之の『キマイラの新しい城』の城主を思い浮かべていただければ大体合ってます。というか作者インタビュー『ドン・キホーテの消息』の樺山三英さんインタビュー : 幻戯書房NEWS読んで気づいたんですが、キマイラもドン・キホーテからイメージ得てるんですね……
あとドン・キホーテ(騎士)がドン・キホーテ(量販店)に入るシーンはさすがにふざけてんのかって思いました。いや確実にふざけてるけど。現代のわれわれが真っ先に思い浮かべる「ドン・キホーテ」ってそっちだもんね……
〈探偵〉サイドは「動物専門の探偵」(紺屋長一郎ではない)の主人公が「行方不明になった叔父〈騎士〉を探してほしい」という依頼を受けるところから始まります。主人公の過去とか依頼主の女とかともいろいろあるんですがまあこの記事で述べたいのはそこじゃないんで割愛で……(最悪)
で、見てほしいのがこのシーン(序盤なので大したネタバレではない)。
「かんたんな仕掛けだったんです」とわたしは言った。「要するに、視点を変えればそれでよかった。でもこれが、言うは易し行うは難しというやつで。なかなかそうスムーズには行きません」
(中略)
「それでいったい、なにを見つけましたか?」
「通路ですよ。抜け穴と階段、そして長大な地下通路。通路の先は、敷地外の井戸まで続いていました。入り口はクローゼットの底に、念入りに隠されています。床面を仔細に調べていただければわかります」
「戦中にできた建物ですから」彼女はわたしの台詞を先取りして言った。「防空壕を兼ねた地下通路が張り巡らされているんです」
「知っていたのですか?」わたしは唖然とした。
「もちろん調べはついていました。叔父がその通路を伝って外に出た可能性は十分にあると思います」
「しかし施設の人間は、誰も気づいていませんでした」
「彼らは捜査の専門家ではありません。あなたとは違って」
わたしは瞬時カッとなり、それから赤面した。密室の解明について、得意げに話すところだったのだ。
「なぜそのことを隠していたのですか?」
「隠したつもりはありません」
「同じことでしょう」
「そうかもしれません。ただあなたには、できる限り先入観のないかたちで捜査に臨んでほしかった。事件を最初から、虚心に追ってもらいたかったのです。いまのところそれはうまく行っているように思えます」
(64〜66P)
普通、探偵というのは他の誰も知らない真実を求めてそこにたどり着く存在だと思うのですが、ここでは依頼者が既に真実を知っており、その上で探偵に調査をさせているんですね(まあこのシーンの状態だと実はまだ〈騎士〉がどこに行ったのかという謎は残っているんですが)〈探偵〉は自分が正しいと思っていた道を、自分が考えた上で、自分の意思で進んでいた、と思っていたけれど、それは「事件を先入観のないかたちで虚心に追ってもらいたい」という他人の意思が介入した「意思」だった。「自分の意思」「真実」という「確かなもの」がここで揺らいできます。
それから、上に挙げたようなミステリじみた話がだんだん社会のひずみとか集団の意志とかの話にシフトしてきます。「騎士VIII」からの展開が特に顕著ですね。「妄想」と「現実」、「正気」と「狂気」の違い、「集団の意思」の暴力性などなど。
われわれは自分のことを正気の人間だと思っていますが、正気の人間の周囲に狂人ばかりいたら異常なのは正気の人間の方なわけで。
現代社会への批判とかいろいろあるのかもしれませんが、その辺あまり深く考えなくても(いや考えなよ)こういう「今自分が信じているものが揺らぐ」小説が好きなのでよかったです。人倫とかないですからね。正直。(暴力)
ほかにも〈劇団〉とか語るべきところは多い気もしますがとりあえずこの辺で……一番好きなのは最後の「わたし」の章だったりします。伊藤計劃『ハーモニー』好きにオススメかも。
正直深く読めてない気がするので識者……読んで感想を聞かせてくれ……頼む……